読書記録 – 忘れられない患者さん

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『忘れられない患者さん 名医たちが語る統合失調症とは』

ライフサイエンス出版社 医療編集室 編, ライフサイエンス出版, 2018年1月22日


どんな本?

何十年もの臨床経験をもつ精神科医たち32人による、「各医師たちそれぞれの心に強く残っている、患者さんたちのエピソード」がまとめられた本。なお本書ではなかでも、「統合失調症」の患者さんたちに焦点を当てたものとなっている。

心に響いた箇所の引用

 病気は不幸だが、最大の不幸ではない。安心して治れない患者を疾病利得というのは、心ない技だと思う。むしろ、安心して治れない要因をつかみ、患者に暗黙裡にでも、わかっているよ」というサインを送ることだ。そして、どうしたら安心して治れるかを考えてみることである。
 安心して治れない患者の中には、家庭が患者の病気というより、患者の存在そのものによって保たれている場合がある。かつて井村恒郎らが指摘したように、患者の絶えざる気くばりが家庭の結合を維持していることがある。治療者がこのことをわかっていることは、自ずと患者に伝わるようだ。これは一般によい方向に働く。患者は察しがよいので、言わないのにわかっていることがいっぱいある。治療者の方が趣味や言語の観察力を動員して、何とか患者の人柄を捉える必要があるのだ。

P18~19, 中井久夫 先生

 私は「生活臨床(1)」の恩師、故江熊要一先生の「本を読んでから患者を診るな。患者を診てから本を読め」という教えをよいことに、専門書の勉強に熱心ではなかったし、正直当時読んでもよくわからなかった。臨床経験なしには本の内容もよく理解できないはずだから、無理からぬことではあっただろうと慰めている。
 そういった訳で、私は時々の流行、権威者の見解や学説は一応気にはするが、患者さん・ご家族に接するときは先入観なしに耳を傾け、その生活ぶりを見て、自分の頭で現状を理解する。そして治療方針を考え、必要に応じて仲間と議論して方針を決めるスタンスを基本としてきた。「生活臨床」の伝統的アプローチである。

(1)生活臨床:1960年代、群馬大学医学部精神神経精神医学教室を中心に生まれた概念。当時の保健師らとともに医師が精神医学を「生活」の視点から捉えようとしたもの。

P34~35, 伊勢田堯 先生

 「心の病」に薬物を処方するのはどうも納得がいかないので、「心は病まない、病むのは脳。薬は脳に効くだけ」と考えることでボクの心と臨床が落ち着きました。心とそれが生み出した生活が脳の資質と合わないと脳が病み、病んだ脳が心の働きと生活を乱し、さらに脳に負担をかけるという負のスパイラルをイメージすると、すべての精神疾患の治療に当てはまります。そして脳には自然治癒力があるはずだから、その萌芽を、脳の表現場である心の中に察知して育て、そこから正のスパイラルの動きが始まるのを期待するのが治癒の要諦である、と理屈づけると、すべての治療法を統合して使える気分になり、学問の新発見が出るまではこれでやっていくことにしています。「神経衰弱」という用語も捨てがたい味があると思います。

P42~43, 神田橋條治 先生

 学会等では絶対に話せない症例ですが、緊張病性の緘黙状態で、口のきけないMさんという男性がいました。私は「Mさん、ちょっとちょっと」と診察室に呼びました。もちろん彼は一言もしゃべりません。で、どうしたか。
 私、彼の前で放屁しました。「オナラ、ブー!」って言いながら(笑)。そうしたらMさんはニヤッと笑って、「先生、やったな」と言ったの。緘黙が取れちゃった。

P111, 蟻塚亮二 先生

感想と思考

 精神科医という立場であるからこそのさまざまな体験・心情などに触れることができ、とても興味深かった。一方で、精神科医といういまの自分とはかなり違う立場に立っておられる先生方が考えたり思ったりされたことたちなのに、自分が日々思っていることとどこか通じる部分もあり、少し驚いたりもした。


ところで。私の大好きで何度も読み返している本のうちの1冊に、『センス・オブ・ワンダー』がある。

読書記録 – センス・オブ・ワンダー | FUTURE KEY
レイチェル・カーソンの本「センス・オブ・ワンダー」の読書記録。
www.future-key.com


なかでもいちばんに気に入っている箇所は、ここ。

 わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育するべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています。
 子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生みだす種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです。
 美しいものを美しいと感じる感覚、新しいものや未知なものにふれたときの感激、思いやり、憐れみ、賛嘆や愛情などのさまざまな形の感情がひとたびよびさまされると、次はその対象となるものについてもっとよく知りたいと思うようになります。そのようにして見つけだした知識は、しっかりと身につきます。

『センス・オブワンダー』P36, レイチェル・カーソン, 新潮文庫, 2021年9月1日

「頭で考えたり、ひたすらに知識を溜め込んだりする『だけ』ではあまり意味がない。大切なのは自分自身で見たり、触れたり、感じたりすることなんだよ。」と、私に教えてくれるような内容だからだ。


そしてそのようなメッセージを今回、本書『忘れられない患者さん』からも受け取ることができた。

「今表出されている症状のみをただなぞるのではなく、1人ひとりの患者さん自身のことをよくみて、向き合うことが大切。」そんな思いを胸に日々治療にあたられている先生方は、本当にかっこいいなと思う。


私も少しずつ少しずつ、大人に近づいていく。だからそれと同時にきっと、「知識を頭に入れる」ことも今まで以上に増える、のだと思う。けれど。

「大切なのは、それだけではないよ。ひとりよがりの思考にならずに、広い視野を持ってものごとを捉えることが重要だってことも、忘れないでね。」という言葉を、今の自分からは送っておく。どうか、届いているといいな。

そら / Sora

通信制高校に在籍中の17歳。 気に入った本や、日々の生活を通して感じたことなどを思いのままに綴ります。 趣味は読書、手芸、それに音楽を聴いたり歌ったりすることです :) I am Japanese, 17 years old and a homeschooler. Keep up with my daily life and journals!! Fav -> Reading, Handmade, Music, etc

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  • Post last modified:October 28, 2023
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