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『被害者学の現在地 --被害者支援のこれまでとこれから』
齋藤実・矢野恵美 編著, 法律文化社, 2025年3月31日
貸出:府立図書館にて→その後、購入(自身の本として)
手に取ったきっかけ
「被害者支援」について学ぶ機会が直近であり、受講前の軽い予習もかねて、ひとまず1冊何か……と思い手に取ってみた本。
「被害者支援」というキーワードでOPAC検索した中で、比較的出版年なども新しかったため最初の1冊としてこの本を選んだ。
気になった箇所の引用
2 課 題
画期的な前進となった犯罪被害者支援弁護士制度であるが、以下のような課題もある。
この制度が宝の持ち腐れとなってしまっては元も子もない。警察、検察、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターなどにおいて、犯罪被害者支援弁護士制度の有用性を認識して積極的にこれを犯罪被害者等に情報提供し、利用を促していくことが必要となる。
そして、各地の弁護士会との連携などを通じて、犯罪被害者等に対し適切な弁護士を円滑に紹介できる仕組みを構築しておくことも重要である。前述したように、既に各地の弁護士会と各都道府県 of 警察などとの連携が進んでおり、こうした取り組みを、さらに全国で実現させていく必要がある。
さらに、弁護士、弁護士会においては、犯罪被害者支援に関する研修など⁹を充実させ、これからさらに増加すると思われる犯罪被害者等による支援要請に応える体制を整えておく必要がある。3 今後の展望
pp. 19~20
今回法制化された犯罪被害者支援弁護士制度については、2026(令和8)年までに施行させることとなっているが、施行後の制度の実施状況を注視し、制度の改善を図っていくことも必要である。
今回の犯罪被害者支援弁護士制度では、対象となる犯罪が、比較的重い犯罪や刑法上の性犯罪等に限られたが、より多くの犯罪被害者等が利用できるよう、対象犯罪の拡大が求められる。
また、利用要件となっているいわゆる資力基準についても、広く利用できるように、撤廃あるいは大幅な緩和が求められるところである。
私たちは誰もがいつどこで犯罪被害にあうかわからない。犯罪被害者等支援は全ての住民に関わる問題である。多くの地方公共団体が力を入れている災害対策や防犯に関する施策と同じく、被害者施策は私たち住民が犯罪被害にあったとしても必要な支援を受けることができるセーフティネットである。
pp. 75
そして、地方公共団体が犯罪被害者等に必要な支援を途切れなく行うためには、被害者施策が総合的、計画的、継続的に実施されることが必要である。そのため、地方公共団体が施策の法的根拠となる条例を制定し、また、条例を具体化した計画や指針を策定し、十分な人的体制と財政的措置のもと、総合的対応窓口を担う被害者部局が司令塔となって関係部署との連携(庁内連携)を図り、必要な支援制度を設けるとともに、関係機関との連携(庁外連携)を強化し、充実した支援体制を構築することが求められる。
また、犯罪被害者等を地域で支え、二次被害を発生させないために、住民・民間団体・事業者(職場)の理解と協力が必要であり、それらの責務は住民全体の代表機関である議会で制定される条例によって定めることが適切である。
さらに、地方公共団体が条例を制定して被害者施策に取り組むことは、たとえ住民が犯罪被害にあったとしても決して見捨てないという力強いメッセージにもなる。
(2)子どもの性暴力被害者への支援
pp. 91~92
子どもへの性暴力に対する対応も必要である。子どもへの性暴力は身近な者によることが少なくなく、周囲も気が付きにくい。また、被害にあった子どもの心身に長期にわたる有害な影響を及ぼす。そのため、子どもの性暴力被害には、成人の性暴力とは別に対応する必要がある。
北欧では、子どもの性暴力被害者へのワンストップ支援センターが発達しており、この施設は「子どもの家」と呼ばれている²⁷。性暴力を受けた子どもに特化したワンストップ支援センターで、現在では、北欧のみならず、EU諸国にも導入されつつある。子どもの家は刑事手続との連携がされており、裁判での子どもの二次被害を防ぐため、子どもの家で子どもの供述を録画し、その録画した記録が伝聞法則の例外として裁判所に証拠として提出される²⁸。そのため、子どもは証人として出廷する必要はない。日本でも子どもの性暴力被害者に特化したワンストップ支援センターが設立されることが検討されて良い。
2 被害者施策のこれから
pp. 117~120
当事者が親密な間柄にある「家族」である場合、加害者に経済的に依存している場合もあるし、子どもと父親を引き離すことに躊躇する人も多く、暴力的な言動さえなくなれば加害者と共に暮らしたいという思いをもつ者もいるだろう。DV被害者は、加害者の下から逃げたとしても、子どもの将来のことやその後の生活のことから、結局元に戻ってしまうこともある。そうなれば、加害者からの支配的な言動や束縛が更に強まることは容易に想像できることであり、より逃げにくい状況に置かれるだろう。「逃げたら何をされるか分からない」という恐怖感、「誰も助けてくれない」、「追いかけてくるから、逃げても無駄」といった無力感、「束縛するのは愛されているから」、「いつか変わってくれるかも」などの複雑な思いもある上に、離婚に伴う法的手続を通じて加害者との関係性が続くため、加害者とは簡単に離れられない実情がある。被害者の生命・身体の安全を確保した上で、被害者の自己決定を尊重し、被害者のニーズに合わせた支援を提供する必要がある。DVのおそれや子への虐待のおそれがあるケースでは、単独親権としなければならないとされているが、果たしてDVの判断は適正になされるのか、親子の交流の取決めに子どもの意思は十分に反映されるのか。2024(令和6)年5月に成立した民法改正¹⁷により、父母の離婚等に直面する子の利益を確保するため、子の養育に関する父母の責務を明確化するとともに、親権・監護、養育費、親子の交流、養子縁組、財産分与等の見直しがなされ、2026(令和8)年5月までの施行が予定されている¹⁸。DV関係にある夫婦が離婚後に共同親権を選択した場合、子の養育を通じて、DVによる支配が離婚後も継続することになりかねないことが危惧されている。
DVの問題には、「男は仕事、女は家事」といった性別役割分担意識、「暴力を振るわれるようなことをした方にも原因がある」、「家の恥を外に出すべきでない」といった社会通念や、男女の経済的格差や女性が経済的に自立することが難しい状況などがあり、個人の問題として片付けられないような社会構造の問題も大きく関係している。つまり、子育てや介護などの無償労働(アンペイド・ワーク)に従事するのは女性が圧倒的に多く、収入が得にくい状況にあること、正社員の男女賃金格差も縮小傾向にはあるものの、75.2%とまだ大きい¹⁹。男女間の賃金格差には、職種や年齢など「説明できる格差」以上に、社会の意識(ジェンダー規範)や、労働生産性に関して女性を低く評価してしまう無意識の偏見や慣習など²⁰、「説明できない格差」が影響していることが想定されるといい、社会意識 of 変革も必要となる。
そして、被害者施策は、①直接の被害者支援、②予防教育、③加害者への働きかけの3つの柱で行っていく必要があるだろう。①は、被害者への相談対応、カウンセリングなどの心理的支援や法的支援や、住居や就業などの自立支援といった直接の支援であり、②は、被害者にも加害者にもしないために、幼少期からのジェンダー平等教育を通じて、DVの理解を深め、暴力の影響を知り、暴力を用いない問題解決の手法を学ぶこと、女性全体のエンパワメントを図り、女性の活躍を促進する施策の推進、社会意識の変革のための活動である。そして、③は、再加害を防止するための加害者への働きかけである。加害者が変わらなければ、被害者をストーキングして危害を加えるかもしれない。DVの一つひとつの行為は刑罰法規を適用するほどのものでないとしても、反復継続していくうちに行為がエスカレートすることにより、被害者の心身に重大な影響を与えることも少なくない。個々の具体的な行為を切り取って個々に処罰するのではなく、被害者に及ぼす长期的な影響を踏まえて、全体の行為として暴力を捉え直す必要がある。重大な結果が生じる前に、加害者への働きかけが必要である。DVは、相手をコントロールしようとして、手段として暴力を用いるものであり、目的的な行動といえる。加害者は、暴力防止プログラムを受講し、自身の行動の根本にどのような価値観があったのかを振り返ることで、行動変容を促し、説明責任を果たし、被害者の安全を図り、再加害を減らしていくことが重要である。このようなプログラムへの参加は、司法の関与のもと、履行を確保していくことが望ましい。
また、現行法では、地方裁判所が保護命令(接近禁止命令と退去命令)を発令し、離婚や養育費、面会交流の問題は家庭裁判所が取り扱っている。「DV罪」がない日本では、加害者の責任は保護命令違反のときに問えるに過ぎず、加害者への対応が不十分である。家庭裁判所が、保護命令の一環としてプログラムの受講を命ずるか、「DV罪」を創設し、DV罪に該当する者に対してプログラム受講を命ずるといった方法も考えられるが、DV事件においては、過去への制裁という刑事事件の対応よりも、後見的・継続的に関わる家庭裁判所的な対応が期待されている。DV事件、保護命令の発令等は家庭裁判所に移管する、重大な刑事事件に発展した場合は地方裁判所に送致することで対応ができないだろうか。刑罰法令の適正な運用や厳罰化するだけでは、逮捕するほどではないと判断された加害者や、被害者の希望で逮捕に至らなかった加害者は、多少の暴力をふるっても捕まらないという「お墨付き」を与えることになりかねない。DVは社会の問題である。今なお私的な問題に矮小化し、DVの危険性を過小評価するべきではない。重大な刑事事件に発展する可能性も踏まえて、早めに加害者にプログラム受講を課し、行動変容を促すことが望ましい。
「逃げられない/逃げないDV」対応として、精神的なサポートを充実させ、本人の自己決定能力を高めることや、被害者が逃げることなく安全を確保できる制度設計や、再加害を減らす取組みが必要である²¹。日本でも加害者プログラムの実施団体も増えてきたが、任意参加の現状では、プログラムが本当に必要な者にアプローチできず、自身の暴力的言動を振り返る機会がない。重大な刑事事件化の防止、早期対応の視点からも、刑事施設内よりも社会内で加害者プログラムを受講させる方が効果的だし、幼少期からの予防教育も必要であろう。DVの問題は、配偶者・カップル間の暴力の問題に矮小化して考えるのではなく、広く社会構造の問題として捉え、裁判所だけでなく、地域社会も含め、社会の問題として取り組んでいく必要がある。男女が社会の対等なパートナーとして様々な分野で活躍するためには、親密な間柄や家庭という密室で起きるDVをなくし、暴力不寛容の姿勢を社会に定着させていく必要がある。
刑事上の支援弁護士活動に関して、弁護士費用が支払われるということは、それが弁護士の活動として認知されたということであり、大きな前進であった。論者ら支援委員会の委員は、被害者に対する適正な法的なサービスを提供するのが支援弁護士である、と機会あるごとにその存在をアピールした。支援弁護士にとって、法的知識やスキルはもちろんのこと、それ以上に重要なのは、同じ目線の高さで被害者と向き合い、被害者の心情を理解することであり、被害者自身の声を聴くことである。そして、支援弁護士として、個別の被害者の真意を的確に把握するよう努めなければならない。
pp. 133
日本の刑事司法は、国家刑罰権の下、検察官及び被告人・弁護人という二当事者主義を根幹とする。そのため、被害者は事件の当事者ではあるが、刑事手続においては「参考人」であり、被害者は、単なる「証拠物」として扱われてきたと訴えた。被害者は、自らが置き去りにされることなく、その意見が刑事手続へ適正に反映されるよう、刑事手続への関与を強く求めたのである。第1次基本計画で示された被害者の刑事手続への直接の関与について、現行の日本の刑事司法の枠の中でどのようなものとするべきか、大きな議論を巻き起こすこととなった。
pp.134
北欧では、誰かが、犯罪被害により損害を被った時に、その損害を犯罪被害者等にのみ負わせるのは不公平であり、社会全体で分担していこうとする価値観が根底にある。このような価値観は、北欧だけのものではないはずである。犯罪被害者等が被った損害を社会全体で負担するという価値観は、日本でも十分に共有できるものである。
pp. 145
さらに続けて、社会(国)の義務についても説明する。すなわち、「ある社会がある犯罪のコントロールシステムを選んだ場合には、その社会はある意味でそれに相応する犯罪を『うけとった』といえる。それで、その社会は、その社会に必然的におきてくる犯罪の被害が不公平にわけられるのを防ぐ義務がある」と説明する¹³。
pp. 147
このように、政府提案書の中で、「犯罪は社会に影響を及ぼす可能性」があるため財源を割り当て犯罪被害者等に補償するべきであるとし、その社会(国)の義務を「犯罪の被害が不公平にわけられるのを防ぐ義務」としたことに特徴がある。
